何も今年に限った話じゃあなくのこと、
新年度から始まるあれこれは、何につけ、
『エイプリルフールじゃありませんから』 と
オチがつけられるのが恒例で。
税金や物価とか、がくんと上がる話が毎年多い中、
今年は特に、消費税が一気に5%から8%へ上がるそうで。
「最終的には10%に上がるらしいしな。」
開店前のカウンター前、
テーブルチェックを終えたギャルソン姿のウェイターさんたちが、
すんでへ迫った話題を持ち出しておれば、
「それって何の財源に使うんだ?」
厨房の方から、
ピンクのキンギョソウとカスミソウを生けた大ぶりの花瓶を
うんしょと抱えて運んで来た坊やがそんなお声を割り込ませる。
お手伝いする気 満々なのか、
寸の詰まった、やはりギャルソン姿の彼であったものの。
おおお、危ないなぁと、
真っ直ぐな金髪をうなじに結ったお兄さんが、ほら貸してと受け取り。
店の奥向き、花生け用の卓まで運んでゆくのと入れ替わり、
止まり木へチョコンと腰掛けた坊や。
まだ小学生だろに、鹿爪らしくも目許を眇め、
「どうせ、
政治家の口利きで作ったような
官僚の天下り先になってる何とか財団とかへ
ざぶざぶ流すんじゃねぇの?」
そんな一端な物言いをするから末恐ろしい。
そんな坊やの後から出て来た、もちょっと小さな金髪の坊やがいて。
よいちょよいちょと、
そちらさんはおしぼりを入れた籐の籠を抱えてやって来たのへ、
「くう、こっち持っといで。」
来い来いと指の長いきれいなお手々をかざして
“おいでおいで”をする もう一人のウェイターさんへ、
あいと素直に差し出してから。
よいちょと先程の小さいお兄さんを真似て
空いてたスツールへ登ろうとするのだが。
いかんせん、本人の肩ほども高いお椅子にはそう簡単にはまたがれぬ。
「ど〜ら。」
籠を受け取ったお兄さんに、続いてひょいと抱えられたものの、
「どうせ座らせても落ちかねんだろうに。」
そのままお膝へ抱えられたのは、
実のところ、子供扱いのようで ややご不満だったらしく、
「やーの。よいちろ、おんりっ。」
「ああ、こらこら。」
やんやんとゴネかけたところへ、
「こら、くう。
そやって駄々こねるのは、お子ちゃまのするこったぞ?」
小さいお兄さんが、すぐ傍らからメッと切れ長のお眸々で軽く睨みつけ、
それから素早く付け足したのが、
「年寄りへ甘えてやんのも、子供のお勤めだかんな、我慢我慢。」
「うや、わぁん?」
舌が回り切らないおチビさんへ、
が〜ま〜ん〜と言い聞かせているのが、毎度お馴染みの妖一くんなら、
「誰が年寄りだってぇ 」
そっくりなお顔をキリキリとしかめたのが、お若いお父さんの妖一郎さんで。
フランスか南欧風の作りのカフェに似合いの一団、
全員が金髪に玻璃色の双眸、肌も色白というのがお揃いの、
何ともきらびやかなこの顔触れが一同に会す、
こちら“茶房もののふ”では、
入学進学の春を控えるこの時期、
隣接する街道を走るバスの路線上幾つかある
女子大や女子高へのサービス対策を毎年練っておいで。
それもあっての、イマドキな話題に沸いていたらしく、
「まあ、サービスと言っても、
新規のお客様への、ケーキとドリンクのセットの
無料チケットを配ってるだけなんだけど。」
花生けをバランスよく据えて来たもう一人のウェイターさんこと、
くうちゃんのお父さんの七郎さんが、
他愛ないものだけどもねと付け足したものの、
「今年は別の対策も要るんじゃないのか?」
先程も話題にしたように、この春から消費税が上がる。
100円の商品に5円だったのが8円になる。
500円のケーキセットだと25円から40円。
「25円でも俺りゃ躊躇しちゃうぞ。」
4回頼んだら100円だぞ100円、
百均で何か買えるぞ、まあ、そっちにも消費税つくけどよと、
信じらんねぇと可愛いはずの口許を歪める坊やなのへ、
「それは、ヨウちゃんが
そんなにケーキ好きじゃないからでしょうが。」
苦笑する七郎さんの傍らから、
厨房にいたマスターが出て来たそのまま、
ほれと特製ブレンドにグリルサンドを添えて差し出し。
受け取った小さなお兄さんへ、ぼそりと言い足したのが、
「さよう。
いつものお連れの弁当代だったなら、
迷う暇もないのではないか?」
「う…。/////////」
おおお、口ごもったぞ、
さすがマスターと、七郎さんが感心すれば。
つか、最近の実例だな、ありゃと、
妖一郎さんが忌々しげに目許を眇めてしまい。
「ま、心配されなくとも、ウチは現状維持のままだから。」
「おお、太っ腹。」
実のところ、本職への隠れみののようなもの、
それほど利益追求に躍起にはなってない皆様なので、
薄利多売どころか、持ち出しになっても構わないそうなのだが、
そこを“実はね?”と語れないのが、大人たちの辛いところで。
「春休みとはいえ、沿線に桜の名所もあるからね。」
「そうそう。それを目当てのお客もくるから、
ウチは値上がりしませんと、ご案内する練習をしとかんと。」
此処は此処での対策が要りようになっちゃった消費税対策は、
エイプリルフールの明日から。
混乱はないと思いますが、
“それが宣伝になって客が増えたら、赤字三昧にならんのかな?”
事情を御存知じゃないからこその、心配を抱えておいでな坊やをよそに、
嘘ついてもダメですよなんて言われかねないねと、
お嬢さんたち相手の明日の話題にほのぼの沸いてる大人たちだったりし。
ほんのちょっぴり東へ行けば、それは見事な枝垂れ桜が有名なお寺もあるとか。
お暢気な大人たちを案じていても詮無い話、
ここはいっそお子様らしく、
葉柱さんやセナくんとの
お花見の計画でも立てたほうがいいぞ、坊ちゃん。
〜Fine〜 14.03.31.
*いよいよの消費税増税の話についつい気分が逸れたか、
そういやエイプリルフールだったねぇというのを、
今日の今日まで忘れてました。
まあ、毎年何にもやんないサイトですけどねぇ。
めーるふぉーむvv
or *

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